刺繍職人の生い立ち

  1. Chu Van Luong氏: 職人
  2. Duc Vinh氏の企業: 世帯ベースの企業のモデル
  3. Vu Van Lam氏: Vam Lam村の工芸協会会長

1. Van Lam村職人:Chu Van Luong氏

Van Lam村のChu Van Loung氏は、80歳の高齢には見えず、健康そうで輝いて見えた。耳は遠くなってきているものの、しっかりとした口調でインタビューに答えてくれた。「いつから刺繍を始めたんですか?」という問いかけに、「お母さんのおなかの中にいる時からだよ」と応じるLuong氏。母の代から刺繍への情熱を受け継いできた自負が感じられた。Luong氏の洗練された刺繍の仕事は、寺などに掲げられる旗に見ることが出来る。李王朝時代の龍などの図柄の刺繍が配されているこの旗は、Luong氏以外作れる人はほとんどいなくなったそうだ。

また、Ho Chi Minh主席の肖像画も刺繍で描いている。Luong氏は1937年刺繍大会に出場して表彰され、フランス統治時代のシステムで第9位という、現在でいう大臣に匹敵する高い位を得た。また彼はベトナム北部の刺繍コンテストにも参加、その仕事はVan Lam地域のみならずベトナム各地で高く評価されている。Luong氏が刺繍人生にかけてきた情熱は、自宅に飾られている格言に良く現れている。


"My nghe van hoa truyen hau the
Tai hoa Cam Tu nguong tien sinh"

つまり、

「芸術とは泉から湧き出るようなものである。
才能は、祖先から受け継がれてきたものである。」

彼は刺繍に熱い情熱を傾けてきた真の刺繍職人である。椿やデイジー、インド菊などをモチーフにした新しい模様をデザインし、刺繍職人としての仕事を愛してやまなかった。Luong氏は才能あふれる刺繍職人であり、刺繍職人として純粋にその人生を歩んできた。25平米足らずの自宅には素朴な木の机と、ベッドと戸棚があるのみで、近代的な家具や家電製品などは見当たらない。彼の作品を高値で買い取りたい人は沢山いるが、作品は売りたくないという。彼は、刺繍職人としての才能だけでなく、詩人としての才能も持ち合わせている。例えば


"Nguoi khong biet co nghe gi
Lang thang khap chon khoe nghe tinh thong"

という詩である。これは、

「人は自らが進むべき仕事など分からない。
ただ、それを分かろうとしてさまようだけである。」


という意味である。

Luong氏は次の世代に刺繍の技術を伝えようとしてきたが、若い世代はあまり刺繍には興味を持たないという。「刺繍だけでは、ほんのささやかな暮らしさえ支えられないんだよ」と若い世代は言う。Luong氏はこうした風潮を非常に嘆いており、近代化された今の社会では、シンプルな暮らしをすることが難しくなってきていると語る。その寂しそうな眼をみると、刺繍の技術を残していきたいという情熱を思いに共感せざるを得ない。彼の家を後にする直前に、Luong氏はベトナムの刺繍技術について自身が書いた本を見せてくれた。



2. Duc Vinh氏の企業:世帯ベースの企業のモデル

1974年に生まれたDuc Vinh氏はこの村に生まれ育った。今は学校の教師と結婚して、6歳の息子がいる。この村に暮らす他の人たちと同様に、彼も小さい頃から刺繍のやり方を知らず知らずのうちに学んでいたという。彼はビジネスマインドの持ち主で、色々なアイディアを持っており、高品質の刺繍製品を作ってハノイの旧市街で売るビジネスをはじめた。

村の歴史についてざっと学んでから、地元で利益をあげるビジネスモデルとなっているNinh Hai郡にあるDuc Vinh氏の会社を訪ねた。会社には4人の従業員がおり、みなVinh氏の親族である。沢山のオーダーを受けたときには外部から短期雇用のスタッフを集めるそうだ。Duc Vinh氏の会社は2002年創立だが、Vinh氏やその家族の刺繍の経験は非常に長いものである。1991年から、彼は製品を旧市街に卸している。その後徐々により南の地域の市場を開拓し、今は彼の家の製品はホーチミン市でも売られている。今では事業も安定して、フランスやドイツなどに輸出相手がいる。

しかし、Duc Vinh氏の会社は輸出入の分野で働ける人材が不足しているという。こうした分野に精通した人は、田舎でなく都市部で働きたがるのだという。輸出入に関しては、英語でのコミュニケーション能力に問題があるため困難を感じているそうだ。こうした点がビジネス拡大の妨げになっている。

Vinh氏は会社を興した理由を次のように語った。

  1. 自分の家族や兄弟、親族や近所の人たちが刺繍産業で働けるようにする。
  2. 刺繍の村で生まれ育ったので、小さい頃から刺繍の技術を学んできた。この仕事を続けたかった。
  3. 自分の会社の経営を通じて外の世界から自分や自分の村について知ってほしかった。

Vinh氏は一方で資本不足に悩んでいる。多くの機関などに融資の依頼を送ったが何も返答がない。ウェブサイトを立ち上げてより多くの人に商品を知ってほしいと願っているが、その知識がない。職員を大学に通わせたい。2-500万ドン程度の月給を支払いたい。そうした願いはあるものの、融資先は見つからないのが現状だ。

Duc Vinh氏の会社は村に根ざした小企業のよいモデルである。彼は、刺繍技術のレベルアップをできるようなプロジェクトや、村の観光開発を進められるようなプロジェクトを期待していると語った。



3. Vu Van Lam氏: Vam Lam村の工芸協会会長

Lam氏は名人とされるような熟練した職人として認定されているわけではないが刺繍の仕事にかける情熱が見て取れた。刺繍製品を製作し輸出している村に育ったことや、その後手がけてきた仕事を、彼は運命だと思っていると語った。彼は小さな世帯ベースのビジネスを営む生産者を対象にしたワークショップの代表を務めている。刺繍人生にかける愛情と創造力で、彼は刺繍パターンを描ける機械を発明した。その発明のおかげでそれぞれのパターンを起こすための1000にも及ぶポイントを書き起こす作業を省略できるようになった。彼の発明がもたらした生産性の向上によって、熟練した職人が3日かかることが1日で出来るようになった。彼と他の協会のメンバーたちは、村のためのロゴマークを考案し、市場できちんと認知されるようにブランドイメージを作って行きたいと思っているそうだ。