ベトナムの工芸品産業と観光振興の現状

ベトナムの工芸品産業と観光振興に見受けられる「強み」について

ベトナム政府は、近年観光と工芸品を結びつけた工芸村の振興に力を入れてきています。ベトナム全土には現在約1500の工芸村があり、地方労働力の3割にあたる1000万人が就業し、30億ドルを売り上げ、輸出額は3億ドル、2005年には9億ドルを上回ると予想されています。工芸品産業に従事する人の収入は農業従事者の3-4倍だといいます。このように工芸品産業は地方において貧困の削減や収入の増加に大きく貢献しているのです。ベトナム政府は伝統的技術の保存をはかりながら観光と工芸品産業を結びつけることを2010年までに実現するという目標を掲げ、さまざまなプロモーション活動を行っています。また日本の市場においては、ベトナムの工芸品は、アジアン雑貨ブーム全体の牽引役となっています。最近ではベトナム雑貨を買うことを目的にHo Chi MinhやHa Noiへ旅行に行く旅行客も増加しており、ガイドブックなどでは主要観光地から日帰りで行ける工芸村が複数紹介されています。そして滞在期間を使って作っているところを見に行きながら買い物もする、という観光客も見受けられるようになりました。このように観光と工芸品産業が密接に結びついた例は、タイのチェンマイなどの一部の例外を除いてアジアの他の地域には見られないものです。

ベトナム各省の政府観光局も、外国人観光客や国内のベトナム人観光客にアピールすべく、独自のパンフレット作りを進めており、地方の見所、歴史、工芸村などについてベトナム語や英語でまとめたり、ウェブサイトを作ったりと、活発なアピール活動を行っています。

2000世帯程度の規模の村でも、海外への輸出ルートを持っているところも多く、村をベースとした中小企業が直接海外への輸出を手がけています。こうした輸出を手がける中小企業の多くは、村の各世帯を伝統的工芸品の一定の供給量を安定的に満たすための生産下請け先としており、多くの村の人たちに仕事を造ることで村に大きく貢献しているのです。更に、優れた職人は家族世帯レベルで海外のビジネスパートナーを持ち、製品の輸出を直接行っていることは驚くべきことです。こうした職人の世帯レベルの輸出は、質の高い製品を作り続けることで、海外の買い付け業者や国内の輸出業者側から認知され始めて開拓されたということが、本案件の聞き取り調査で明らかになっています。



ベトナムの工芸品産業と観光振興に見受けられる「弱み」について

前項に上げた高い潜在性の一方で、ベトナムの工芸村は問題も多く抱えています。観光資源をうまく活かしきれていない、経営能力不足、運営組織の不備、資金不足や器具の不備、市場収集能力やマーケティング力不足、村のインフラ不足、技術不足などです。マーケティング力不足のために、中間業者や仲買人に依存せざるをえない村の生産者も多いのです。

また、観光客誘致に成功しているとされるいくつかの伝統工芸村では、地方の静かな雰囲気や、村で取れていたはずの原材料、伝統的に培われた技術などを含む伝統的価値や文化が急速に失われつつあるといった問題が指摘されています。また、優れた技を持つ職人がいる場合でも、品質が不揃いであったり、デザインが現代の生活スタイルに合わない、外国製品や人気商品をコピーするなどの問題を抱えていることもあります。

また、ベトナムの観光産業についていえば、大都市での観光は十分認知されているものの、伝統工芸村などの小さな村への観光は、近年旅行業者や観光客から急速にその魅力が認識されてきたとはいえ、新しい観光地として定着するには、関心を持ってもらうための発展途上の段階にあるといえます。国全体としてこうした状況を乗り越えていくためには、村人、地方政府と中央政府、旅行業者、地元の大学などが一丸となって、これまでにない、新しいタイプの観光を作り上げていく努力が必要になるでしょう。

こうしたさまざまな問題は、ベトナムだけではなく同様に、OTOP(一村一品運動)を軌道に乗せているタイや、他の回廊沿いの諸国にもみられます。



ベトナムの伝統的工芸村における観光のあり方

上記に述べた通り、過去の事例から工芸品と観光を通じた地域開発は、あまりに急速な開発を進めたり、観光客を一時的に呼び込むことにのみ焦点を当てすぎると、地域文化を崩壊させてしまう可能性があることがわかります。こうした点を鑑み、本調査では持続可能な工芸品産業の発展と観光振興を進めるべく、伝統的文化や価値の保護と育成、人的資源の開発に配慮した提言を目指すこととします。こうした観点から、調査全体の前提として、次のような工芸品産業開発と観光振興におけるいくつかの重要事項を確認したいと思います。

ベトナムの豊かな工芸品文化が培われてきた背景には、間違いなくベトナム農村文化や周辺の環境が深くかかわっています。工芸品産業は、ベトナム各地で息の長い発展を遂げてきましたが、これはそれぞれの地域固有の天然資源を活用する智の結晶であるといえます。従って、伝統的工芸品とは、製品の形や色といった外観だけではなく、人々の暮らしや地域文化と密接に結びついているものだと考えられます。「地域らしさ」や「その地域独特の伝統工芸品」は地域に存在する「自然的資源」「生産的資源」「人的資源」「文化的資源」「景観的資源」といったさまざまな地域資源が、互いに関連しあいながら生み出されたものです。こうした自然環境や生活文化の違いから、全く同じ特色を持った地域というものは存在しないし、それぞれが個性を持つ以上、外部から持ち込んだ手法や技術、理論だけでは地域開発を進めていくことは難しいのです。

したがって、伝統的工芸品の振興を活用とした観光を図ろうとする場合、何よりも、当該地域の、「地域に暮らす人たち自身による」、地域資源やアイデンティティー、地域のルーツ、強みや弱みの再確認・再認識の作業が重要であるといえるでしょう。この過程そのものが、地域開発を進める上で非常に重要となるのです。本調査では、こうした観点を念頭に置きながら調査を進めていきます。